ザ☆シュビドゥヴァーズの日記

毎日更新されたりされなかったりする日記

「お電話番号様」という言い方について

こんばんは、ヨン様です。

本日は「第5回副次的文化系合唱祭」の初日(合宴)でした。 シュビドゥヴァーズの参加予定日は来週の2日目(奇宴)ですが、兼団メンバーの中には何人かオンステした人もいたようです。 参加した皆さま、本当にお疲れさまでした。

本当はきちんとタイムラインを追って表記ゆれなどを検挙するのが正しい合唱団員としての務めなのでしょうが、あいにく今日という日に邪悪な締切が2件も重なって精も根も尽き果ててしまったため、あまり大会の様子は分かっておりません。 後日参加したメンバーが記事にまとめたりまとめなかったりすることでしょう。 あまり期待せずお待ちください。

特に書くこともないので、どうでもいいことを書きたいと思います。 近年、電話対応などで「お電話番号様」という言い方がなされたりすることがあるようです。 私自身は言われた経験がありませんが、目の見えない相手に対する気遣いと言うのは相当ストレスフルなものです。 そのような環境で過剰に待遇性が模索された結果、「お電話番号様」という表現が登場したのかもしれません。

大抵の場合このような「過剰敬語」が話題にのぼると、自称マナー講師や日本語評論家どこからともなく現れ、弱い者いじめのようによってたかって批判の声をあげるものです。

「『~様』や『~さん』は人に対して敬意を表すために使用するものです」

「このような表現は間違った日本語なので使わないようにしましょう」

我々の日本語や社会生活に対する不安をエサにして、このようなマナーがまことしやかにささやかれたりもします。

確かに、社会生活をするうえでの言語表現というのは、使用者自身の社会的評価と密接に結びついているので、どのような表現を用いてもいいということにはなりません。 しかし、だからと言って言語事実に反する俗説を流布させてよいということにはならないはずです。

少し考えてみると、「~様」や「~さん」は、かなり多様な語に後接することが分かります。 例えば、以下のような例はどうでしょうか。

お日様/おさるさん

→自然物/動物

お疲れ様/おはようさん/おまちどおさま

→挨拶言葉(感動詞

これらは全く自然な日本語であると考えられますが、人以外の存在や挨拶の言葉にさえ「~様」や「~さん」という表現が結びつくことが分かります。 「おまちどおさま」に至っては、「待ち遠しい」が「まちどお」で切れた挙句、「お~さま」を付加した例だと考えられるので、もはやなぜこのような表現が成立しているのか説明することは困難です。 そうすると、「『~様』や『~さん』は人に対して敬意を表すために使用するもの」という指摘は、間違いではないにせよ「そういう場合もある」という程度の理解をしなければなりません。

ここで言いたいことは、「言語表現は、なんでも規範的な裏付けがあって存在する」という素朴な言語観を持っている必要はないということです。 もちろん、規則で説明できることは教育・研究上きわめて重要なことですし、一見規則のないところに規則を見出すことが言語学者の仕事でもあります。 しかし、実際には個別の例外的な言語表現を許容するくらいに言語は“ゆるく”できており、その“ゆるさ”こそが言語運用の柔軟性につながっているのです。

「私はこういう表現は使わない」とか「やっぱり日本語として変に感じる」という直感を持つことは全く問題がありませんし、むしろ自然なこととさえ言えますが、だからといって「この日本語を使ってはいけない」ということにはなりません。 それはその人自身の許容する日本語の文法的・社会的規範が、新規表現を容認する人に比べて狭いというだけであって、「日本語そのものがそうなっている」というわけではないからです。 そもそも、「すべての日本語は標準化されなければならない」というようなことを言い始めると、京阪方言における「なおす(=片付ける)」などの地域方言は、全て東京方言の規範(そのようなものを正確に明文化できるとして)に合わせて修正されなければならないという話になってしまうでしょう。 地域共同体で認められている言語表現と、新規表現を許容する共同体の間で認められる言語表現の境界は、それほどはっきりしたものではありません。

そんなわけで、新規の言語表現を見かけた際は、「けしからん!」と鼻息荒くこぶしを振り上げるのではなく、そっと生暖かい目で見ていただければと思います。 新規表現は、いわば子供のようなものです。 大人の規範から見れば逸脱しているように見えても、裏には隠された理由があるかもしれませんし、未来の日本を担うこともあるかもしれません。 そういった背景を包括的に見通すことが、真に日本語を評するということになるのではないでしょうか。

分量の割には「お電話番号様」という言い方についてあんまり触れられませんでしたが、ぼちぼち眠いので勘弁してください。 良い日本語ライフを。

それでは!