ザ☆シュビドゥヴァーズの日記

毎日更新されたりされなかったりする日記

関西アイマス合唱部収録の時の話5

前回まで:音源1本目の終了時間と発声終了時間を取り違える勘違いコントが発生

関西アイマス合唱部収録の時の話4 - ザ☆シュビドゥヴァーズの日記

 

時刻:午後2時

「あっわかりました、飛ばして終わらせます。あんまり言うてもしゃあないんで」

 

お互い伝達に不備はあったでしょうが、今はそんな事を気にしている場合ではありません。

時間がない。指揮進行もそれは同じ。発声を最速で終了出来る様即応してくれました。

 

「今の所までチェック、そのまま最後までいきます」

「「はい!」」

「2時5分には終わらせます」

D「大丈夫です」

 

既に余裕のなくなっている私に代わって即フォローを入れるディレクター。

そして指揮者の指示と、応じるメンバーの切り替えは見事なものです。

アイマス合唱部@関西は広く団員を募集しているだけあって、もちろん初心者の方も多くいらっしゃいます。みんなで楽しむ空気が伝わってきて、でもそれだけではない、しっかりと統制の取れた「合唱団らしい」動きをしている所が感じられます。@関東の雰囲気とはまた違う頼もしさでした。

 

第5回「1テイクは2秒で死ぬ」

 

「…多い。」

机を埋め尽くすヘッドホンアンプ。いつの間にか持ち込まれているカラーボックス丸々一個分の装備と、コンデンサマイク

事前に出していた関西勢への機材支援要請に応えて用意された機材の数々。

確かに要請はした。コードが何本か足りない可能性があったし、アンプももう一個あれば余裕あるかな、なんて。それで助け舟をお願いはしてあった。あったが…

なんというか、助け舟を呼んだら空母が来た。

 

うれしい誤算だったのですが、事前に頼んでいた協力メンバー(や頼みもしないのに車一台分の機材を満載して来たメンバー)のおかげで事前に危惧していた機材リソース不足は完全に解消されました。

それだけではなく、自前で機材を使うメンバーは知識もあり、私やディレクターの指示を周りに広げてくれます。

 

「ちょっとそっちに寄ってあげてね」

「仲良くそのコードをペアルックしやがってください」

「テナーの高低、どっちのマイクに声を入れるか確定しといてくださいー」

 

急いでモニター環境を整えます。

 

D「こっからの録音スケジュール、1テイクあたり45分です!」

「10回歌えます!逆に言うと10回しか歌えません!」

 

「充分充分!」と歌い手側からの声。

まだ収録は始まっていません。つまり、まだメンバーは「レコーディング」のイメージを持っていません。

確かに一般的な合唱の収録は殆どが通しで行われ、10回も歌うことは少ないでしょう。

ですが、今回は違います。

ミスは、即死です。

誰か1人が1音間違える、或いはコンマ数秒のズレ、そんな、通し録音では到底拾いきれないミスの全てを許容せず、妥協せず組み上げる。それが今回の録音です。正確さも、表現も、自分たちが気に入らなければ1パート、1音まで分解してでも納得のいくものにする。わざわざ持ってきた大げさな装備と私の技術は全てそのためにあります。

 

「なので、ミスったと思ったら即止めてください。手を上げても良いですし、或いは大声で叫んでください」

「どうしてなんだよ!!なんでなんだよ!!(大声)」

D「…くらい長くなると、それはそれで時間を消費します」

KJ「これだけ人数いるので私結構気づかないです。目立ってください」

 

収録が本格的に始まっていきます。

ここから収録ハイライトです。

 

www.youtube.com

take2

「男声二回目のpaが遅いです」

「私ですね!」

D「タイミング合わなそうだったらクリック大きくしてみてください。どんだけ歌ってもクリック音だけは耳に刺さってくるのが理想です」

 

take7

「3回録るんで、リズム音程意識してください。表現はあとのテイクでどうにでもなります。」

「17小節、今ソプラノがズレた」

「男声、4分音符スタッカートでバシッと切るくらいでええと思う」

「クリックを倍の細かさに変えられる?」

(クリックを4ビートから8ビートに変更)

 

take12

「はいりづらっ」

「それでもまだ頑張って男声が走ろうとしてる」

「4ビートに戻します。心の中で数えていきましょう」

「男声は2拍目のところから早く入ろうとするからそこ注意して」

 

 take13

KJ「はいそこで打ち合わせしてる人!喋ってるのマイクに入ってます!リテイクです」

「すません!」

「なんか4小節からかっちりハマるようになった」

「ペーパーノイズ(譜面めくる音)どうですか?」

「あの…あれ…声優さんがめくる時の感じで!」

 

この時点でテイク10を過ぎていますが、まだ前半1/3どころか、その中の難所の前です。

そしてこの後から、ようやく難所前、始めのセクション完成が見え始めます。

 

take14

「ドレスルームの中、輝いてるのよ♪」

「止めまーす」

「今のいい感じじゃなかった?」

「一箇所気になったけど、1テイク目ならいける」

「最後だけ気になった」

「じゃあ直前の小節からスタートしましょう」

 

「ここの音気になるんですが弾いてもらえます?」

「8だけテノールバスで録りなおしすれば良いんじゃないすかね?」

「8のテナーベースだけとりまーす」

「べんりやなあ」

「なので、ソプラノアルトは(こいつら下手やな)って思ったら手あげてください」

女声「あげっぱなしになる(辛辣)」

 

take15(TB)

「あってる?」

「あってる。しってる。この音知ってる」

 

「じゃあ20小節行きましょうかー。ちなみに、現在2時35分。残り10分。まだ前半です」

D「理論値なら3回5分で録れるから大丈夫」

 

一通り始めのセクションをとり終え、だいぶテンポが掴めてきました。

さて、ここからが難所です。各パートが8分で「papapapa」と繰り返すリズムセクション。音程、タイミング、発声のどれがほんの少しズレても非常に目立ち、事前練習の音源でも完成された状態は聞けていません。

 

take18

指揮「ここからが難所で何テイク録るかなんですよね。ここ越えたら大丈夫なんです。」

 

take20

D「覚えてて下さい。今日の録音はメトロノームが“神”です」

指揮「だから僕は今日指揮振ってないです」

 

take23

「45分までに揃わなかったらパート別にとりましょう」

 

take24

(うつむき加減に手を挙げるテナー)

「えっ?どうしたの?そこ手なんか上げて(煽」

「惜しかったねー途中まで良かったのにー(煽」

「あー今の行けたと思ったんだけどなー(煽」

「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い(戦犯」

「どっかのテレビ番組状態になってきたな…」

「『NGテイク2』みたいな」

撮影「あっこれも全部撮ってるんで」

「ヒィー」

「素材になる」

「ジャッキーチェンの映画みたいや」

「MAD素材やん」

「フリ素だ!フリ素!!」

 

take25

「すいません歌詞間違えました…」

「今のとこ歌詞Paしかなくない!!!?」

「むしろなんつったんすかw」

 

take26

「この次うまくいかなかったらパート別にとりますか」

「改めて聴くと走るな―」

「走った後に待ってるもん」

「待つな」

 

take30

KJ「まだもっと正確にはなるんだけどね」

D「ただまあ時間と練度の関係上これ以上は厳しい」

「せやね」

KJ「ちょっと30秒くらいもらってもいいすか」

D「あっ来た」

「すげえな切り抜いて一部だけずらすぞこれ」

「おお合ってきた」

「かがくのちからってすげー」

「ここのベースだけ取り直しますか」

「まあこれなら」

「オッケー出ました」

 

僅か8秒に満たないリズムセクションですが、15テイクを費やし、微調整も加えて形にする事が出来ました。

 

D「ゆーてこれは1テイク目です。声自体は2テイク目3テイク目の方が良いやつが取れます。今録ってるのはガイドボーカルみたいなやつです。」

「なのでリズムと音程をめっちゃしつこく言ってるっていう」

KJ「さっきの編集で若干今の所の音質は落ちてますが、あとのテイクで頑張れば大丈夫です」



take35

「どしたの手なんか上げて(2回目」

「『もんだいよ』のとこ『もんだいね』って言っちゃった…」

「あざとい」

「もう一回!もう一回チャンスをください」

「あと一回やぞ!」

 

take37

D「あの、ベース、もうちょっとかっこいいベースが聴きたい」

指揮「あ、昨日それ言ってみたら」

D「はい」

指「不気味社さんみたいになったんすよ…」

「確かにかっこいいけどな!」

指「そう、いいんやけど僕が狙ってたかわいい系のかっこよさとはちがった」

D「ちょっと違うけどイメージ真!」

「あーもういけるわ。もうわかったわ。いけるわ」

 

take38

「最後の音だけ!最後だけとりなおし!」

 

take40

「いいやん!」

「これで通しでちょっと流してみますね」

 

あとから音源を遡ると、無音の空間に漏れるクリック音と全員が譜面をめくる音だけが響きます。数十人メンバーが居て、誰一人集中を欠く事のない張り詰めた空気。見ている私もつい緊張してきます。

 

「一部だけやねアルトは」

「いやもうボカリズが全部だめ」

「うちのパートのここがって言うのがあったらこうそう手上がってるそういう」

 

ここから、パートごとの取り直しです。

「正確さ」が全て。気になった部分を徹底して追求する。

それが収録全体の基準となる、1本目音源の録音です。

 

D「テナー!気になる所を1箇所!」

テナー「いや、直したいの2箇所くらいありますね…」

D「言って良いのは1箇所(圧)」

 

~修正後~

D「テナーすぐ終わったから後一箇所言っていいよ」

KJ「何の権限w」

D「え?タイムキーパーの権限」

 

「楽譜おいて。絶対に楽譜に!向かって!歌うな!」

 

(全パート修正録音完了)

 

D「テイク1終了です!お疲れさまです!」

「45分オーバーです。」

「本当に時間がないので25分までは休憩『しても』いいです。」

 

5分休憩です。

「一回外の空気吸ってきたほうが良いよ!」

各々がトイレや外に休憩しに行きます。

 

あと2時間。休憩、撤収、部分的なとりなおしを除くと、残り2テイクに純粋にかけられるのは、その半分。

 

必要な音源はあと2本、マスター2テイク分。

残り時間は、あと1時間。